物理屋の不定期ブログ

読書感想を中心とした雑多な内容のブログ。拙著「量子力学」に関係した記事も含む。

2017-01-01から1年間の記事一覧

伊丹十三

伊丹十三のエッセイを読むと彼の異常な多方面での天才ぶりとヒリヒリするような繊細で鋭敏な感覚に圧倒される。どのようにしてこの多チャンネルの反応性に富む一流のしかし危うい才能は生まれたのか?人生の終盤で到着した映画監督という職業は彼の天才を発…

「漢字とは何か」、岡田英弘

最近,東京外国語大学名誉教授で東洋史学者の岡田英弘氏が亡くなった(2017年5月)。彼の本は何冊か読んでいる。最初に講談社現代新書の「中国文明の歴史」をざっと読んで感銘を受けたので、同じ話題、特に中国人にとっての漢字/漢文の役割について敷衍した解…

白州正子「いまなぜ青山二郎なのか」、小林秀雄のこと

何年か前、NHKで白州次郎の人生をドラマでみせていた。そこで、白洲正子の先生として青山二郎なる人物が出てくる。ドラマでは市川亀二郎が演じていた。初めて聞く名前の人だが、エキセントリックで気障で破滅的でとても魅力的な人物に描かれていた。お気に入…

「どうかな?」、と思う科学用語:レム睡眠、地震のS、P波

睡眠中に「金縛り」にあったという人の話はよく聞く。『ステキな金縛り』という三谷幸喜監督の映画もあるが、実際のところ、霊には関係ない。そんなに霊さんも暇ではない。ちょっと調べてみると、「金縛り」は睡眠障害の一種らしい。人間の睡眠にはレム睡眠…

米映画「The Reader(愛の朗読者)」

7,8年前飛行機の中でたまたま観た映画。おもしろくなければ他のを、と考えていたのだけれど、ぐんぐん引き込まれて2時間以上のこの映画を最後まで観てしまった。ヒロインのハンナ・シュミットを演じていたのは、1975年生まれのKate Winslet。これでアカ…

「秀才」の陥穽

院生の頃言われたのは、馬鹿な質問ができないといけない、ということ。これは二重の意味があって、主体的に、馬鹿な質問かなと思っても勇気を出して質問できるぐらいでないといけない、ということと、馬鹿な質問を歓迎する雰囲気を作らないといけないという…

大江健三郎「万延元年のフットボール」についての思い出

500ページ足らずの(大江の作品ではない)小説を3年がかりで読んだ。達成感はあるが、何がいいたいのか分からない。人生の終わりを切実に感じている老人の生き方を描いていることは分かった。その点で年齢を自覚するものとして考えこむときが何回かあった。し…

天野清「量子力学史」、カント

天野清著「量子力学史」(自然選書 中央公論社 1973年刊)を読み終えた。ただし、付録を除く。筑波出張とその後の置き忘れというトラブルのために、その読みが中断していたのであった。今日読んだところは量子力学の核心に当たるところであった。§16 量子力…

ルネ・レイボヴィツ

NHKFMでルネ・レイボヴィツ指揮のベートーベンの9番を聴いた。1昨年末のことだった。それがレイボヴィッツを初めて知ったときだった。 ローマ・フィルハーモニー管弦楽団 「交響曲 第9番 ニ短調 作品125“合唱つき”」 (ソプラノ)インゲ・ボルク、(アルト)ル…

E・H・カー「新版 カール・マルクス」(未来社、1998)

あるブログかtwitterを読んでいたら、50年ほど前に訳が出たE・H・カーの「カール・マルクス」が、「マルクス主義」がマルクスの若いときに構成された未熟な思考体系である、と明快に批判している、というようなことを書いてあった。このような観点からのマ…

アニメ映画「この世界の片隅に」

「この世界の片隅に」を観た(今年始めのこと)。母と同世代の主人公に感情移入し、戦争時代のしんどい暮らしが痛みのように伝わってきた。娘たちも嫁いでいる。主人公が母とそしてときには娘たちと二重写しになる。主人公の戦時下の困難な環境の中でのけな…

伏見関数と密度行列のQ表示についての覚書

量子統計力学における基本的概念はvon Neumanによって導入された密度行列ρ(q,q’)である。von Neuman自身は混合状態だけでなく純粋状態にも適用される概念として導入している。密度行列は配位空間に足を持つ行列である。密度行列をWigner-Weyl変換して作った…

中学時代のブラスバンドクラブと恩師の思いで

2017年4月30日の「題名のない音楽会」はブラスバンドが特集されていた。そこでホルストの「吹奏楽のための組曲2番」が演奏された。(因みに、私は「1番」の方が好きでときどきクラリネットのパートをリコーダーでときどき演奏する。)そこではユー…

L. ド・ブロイの貢献そして朝永「量子力学」が名著であること

量子力学の形成過程を最近勉強しなおしている。 量子力学(Quantum Mechanics)形成には二つの流れがある。一つは、ボーアの対応原理を発展させたハイゼンベルグ, M.ボルン-P.ヨルダン, ボルン-ヨルダン-ハイゼンベルグの行列力学の流れ。これはボルンによりQ…

「カルテット」を垣間見ての感想

TBSテレビドラマ「カルテット」の最終回。最後の方で音楽に挫折した聴衆からの手紙が読み上げられる。君たちの演奏はひどい、揃ってない、ボーイングが一致していない、、、要するに音楽ではない、煙突から出る煙りのような何の意味もない排出物である。それ…

WKB

量子力学の半古典論(準古典論)として使われるWKB法は\hbarの展開でシュレーディンガー方程式の解を近似していく理論である。2階の微分方程式を1階の方程式に帰着させるので特異摂動論になる。そのため\hbarの展開は素朴には漸近級数展開になっていて収束…

エドマンド・バーク

エドマンド・バークを長い長い逡巡の末、最近読んでみた。ただし、「新訳 フランス革命の省察―「保守主義の父」かく語りき」(佐藤健志訳 PHP 2011年)による。逡巡していたのは、少数の例外を除いて、これまで読んだほとんどの著書でこのバークを「とんでも…

山下誠子句集「富士に添ふ」感想

俳人協会会員、「橡」同人の山下誠子さんから初句集「富士に添ふ」を献本していただいた。山下さんとはある偶然のきっかけで親しくお話ししていただくようになっていた。献本という思いがけない感激に、その日のうちに通読し、心に残った句を日記に書き留め…

ブログを始める:宗達

読んだ本や考えたことについて、公開を前提としてブログを書くことにした。Hatena日記は一部の人にのみ公開されているが。 古田亮著「俵屋宗達 琳派の祖の真実」(平凡社新書518, 2010年)を読んだ。著者の主張はおおざっぱに言うと、宗達を琳派に入れるな、…