物理屋の不定期ブログ

読書感想を中心とした雑多な内容のブログ。拙著「量子力学」に関係した記事も含む。

俳句誌「橡」H6年3月号に掲載されたいくつかの句の鑑賞

図星てふひと言に湧く初笑ひ  山下喜子 (p.10)

「図星」である指摘というのは互いに遠慮のない間柄だからこそできることでしょう。思いがけず本音を指摘された驚きを「そう、図星!」との一声で一同の笑いを誘うことができるのも気の置けない者の集まりだからこそ。わきあいあいとしたお正月の幸せな一風景が見事に切り取られた。

 

冬あたたか父の遺愛の杖借りて 矢野間稲霧 (p.11)

 お父上の愛用していた杖を握ればおのずと肉親との暖かい心の繋がりが感じられることでしょう。なお一層この冬の日が暖かく感じられます。

 

大空へ末広がりや初雀       佐久間一作 (p.12)

 大空に雀の群れが扇型に広がって飛んでいく。年初め早々気持ちの良い末広がり!目出度い!

 

逝く年や昭和歌謡に涙して   永山比沙子 (p.13)          

 私は八代亜紀を想起しました。彼女は年末の紅白歌合戦常連だった。喉を悪くする前の彼女の歌は素晴らしかった。私は彼女のフアンでした。1950年生まれの七十二歳での死はあまりにも早い。

 

こもる身の窓を覗きに初雀   永山比沙子

 疫籠りのやり場のない鬱屈した気分を抱えている私の部屋に、雀が窓辺に留まってこちらを覗いている、いや、覗いてくれている!何とかわいい、神か仏の使いかしら?新年早々一ぺんに気分が晴れやかになった私。

 

庭木のみ残る生家や枇杷の花  山之内赫子 (p.14)

 庭木以外家族が住んでいたことを示す物質的な跡は何も残っていない。残った枇杷の木に咲く小さい黄白色の花は寄り集まって日の光の中で輝いている。幸せだった家族を象徴するかのようだ。

 

ひとつ吐かぬ仁王や寒の月   細野喜世子 (p.40)

 冬の厳しさと仁王の威厳、この仁王は阿形だろうか、その開いた口はそのまま凍てつく空の月に繋がっている。

 

リハビリに夫の励むや日脚伸ぶ  小菅 さと子 (p.41)

 リハビリに励む旦那さんは元気で体調もよさそうです。その安心感が「日脚伸ぶ」に表現されています。 

 

初旅の富士を車窓に見逃さず  宮田早智子 (p.44)

 車窓からチャンスを逃すことなく意識的に富士を見ることに成功した!よし、よし、自分はまだ若い。新年から縁起のいいこと!

 

手を繋ぎマフラー撥ねて子ら帰る 宮田早智子(p.44)

  仲良しの子供たちはマフラーを無造作に手で撥ねるほど生気に満ちている。それを眩しく嬉しそうに見守る私。この作者には優れた芸術的感受性が感じられる。                                                   

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