物理屋の不定期ブログ

読書感想を中心とした雑多な内容のブログ。拙著「量子力学」に関係した記事も含む。

2021-01-01から1年間の記事一覧

生物学の読書 (2022年2月8日増補)

最近集中して生物学/生理医学関係の本を読んでいる。感想はもう少し読書を続けて理解がまとまってきたころに書くことにして、ここでは読んだ本を記録しておく。 1. 福岡伸一関係 「生物と無生物の間」(講談社現代新書、2007) 「動的平衡 1,2,3」 「最後…

「松山」二題

私の生まれ故郷は四国の伊予松山である。伊予は文弱の土地と言われ、四国の中で唯一総理大臣が出ていないが、子規や虚子をはじめとする多くの俳人を輩出している。たとえば、内藤鳴雪、河東碧梧桐、中村草田男、石田波郷。ノベール文学賞の大江健三郎*1)も愛…

世界第10位の研究力になってしまった我が国:国立大学「独法化」と財務省の「選択と集中」政策の「成果」

日本の研究が世界10位になったという報道があった。これに関連して、2018年12月に書いたもの*)に手を加えたものを掲載する。 %%%%%%%% 大学は、独法化とそれに期を一にして取られた「選択と集中」政策のために、組織も人も貧困化している。「貧すれば鈍する…

「高等遊民」と昭和の庶民のエートス

片山杜秀「未完のファシズム---「持たざる国」日本の運命」(新潮選書 2012)では、日露戦争後、日本人は勝利に浮かれて精神の基盤をなくし、新たな倫理的基盤の構築を急いだ。江戸時代の儒教的倫理が死に絶えたのだ。。。そこで、たとえば、人格主義。「三太…

益川敏英先生の思い出/益川語録 (2021年8月15日/8月17日追記)

2008年度ノーベル物理学賞賞受賞者の益川敏英先生が先月7月23日に亡くなられたとの報道があった。稀有な独創的研究者であった益川さんの個人的思い出を備忘録的に書き留めておく。 1) 私が学生だったとき、益川さんは素粒子論研究室の助手だった。この研究室…

`Time Health' マガジンの教える5つの脳老化防止策

1.社会生活の維持 多くの友人を持つ必要はなく数人でいいから日常的に相互作用のできる友人を持つこと。ボランティアやご近所づきあいが大切。ペットを通しての付き合いとか。 社会性の維持と関連して重要なのが聴力の維持。 個人的な付き合いが難しい場合は…

亀淵 迪著 「くりこみ理論誕生のころ――一研究者の回想」(2016年、「図書」連載)

5年前の2016年、たまたま教室の図書室で見つけて読んだが、岩波の「科学」に3月号から連載されている亀淵 迪さんの 「くりこみ理論誕生のころ――一研究者の回想」。 これがすこぶるおもしろかった。(これは、その後の連載も含めて次の単行本として出版され…

吹奏楽部は体育会系?

私は中学、高校と吹奏楽部に所属しクラリネットを吹いたり指揮をしたりしていた。高校3年生のときには、クラリネットパートはレベルの高い後輩で十分人数が足りていたし、高3になって急に指揮をやりたいと言い出した同級生がいて、彼から低音が足りないから…

「しようと思ったことができない病」

10年前の岩波の「図書」(2011年6月号18-20頁)にこんな記事が出ていた。 阿部公彦(まさひこ)著「しようと思ったことができない病」「...ひとりで運転しているとどうしても、CDの設定だの通算走行距離距離だの信号機の形だの道路沿いのガソリン価格競争だの…

くりこみ群法と包絡線:最近のStrogatzのYouTube講義

驚いたことに、ごく最近、著名な応用数学者でベストセラー作家でもある米国コーネル大教授のSteven Storogatz氏のYouTubeでの人気講義で私の1995年の論文 Geometrical Formulation of the Renormalization Group Method for Global Analysis | Progress of T…

母がなくなって10年:法事のお経の思い出

10年前の4月28日に母が亡くなった。2011年の6月初めに四十九日の法要があった。母のことを書き出せばきりがないし、ここではそういう母への個人的な想いを書く場所ではないだろう。以下では、そのとき法要の様子を観察して分かったことや考えたことを書いて…

お寺の子弟の院生との会話の思い出:「他力本願」、法然と親鸞、明治維新

10年ほど前、私の主催する理論物理の研究室に得度もしているお寺の子弟の院生がいた。彼は、すでに法事では檀家回りを手伝っている一人前の僧侶でそのうち浄土真宗のお寺を継ぐことなっている、とのことだった。お浄土は西国にあるというから彼の名前を仮にW…

1970年代初頭のK大学教養部代議員大会の思い出

60年代と80年代後半に生まれた私と同じ大学出身の物理研究者と話していると、どういう話の流れか、彼らが60年代から70年代にかけての「学生運動」を活字でしか知らないことが分かった。それでは、と私の実体験を語り出したら長い話になってしまったことがあ…

E・H・カー「新版 カール・マルクス」(未来社、1998)覚書

以前ブログか twitterで、 E・H・カー著「カール・マルクス」 が、「マルクス主義」がマルクスの若いときに構成された未熟な思考体系である、と明快に批判している、という記事を読んだ。そこで興味がわいてすぐに図書館から借りてきて読んだことがある。こ…

海外美術館所蔵の日本美術、廃仏毀釈

10年近く前、大阪天王寺にある大阪市立美術館で鑑賞したボストン美術館所蔵の日本美術の展覧会は衝撃的だった。長谷川等伯、光琳、若冲、そして蕭白。蕭白の巨大な雲竜図には度胆を抜かれた。また、大胆でスピード感のある筆致の商山四皓図屏風にも感銘を受…

岩波「世界」、「朝日ジャーナル」の想い出:桑原武夫、加藤周一、丸山眞男

学生時代から30歳になったころまで岩波書店発行の月刊誌「世界」を定期購読していた。そのころよく読んだ常連の寄稿者は桑原武夫、丸山眞男(真男)、加藤周一そして伊東光晴らであった。 私は桑原武夫は偉い人だと思い私淑した。その後、岩波から出た10巻の…

P.A.M.ディラック、`The Strangest Man'

ディラックの伝記 https://www.amazon.co.jp/gp/product/0465022103/ref=dbs_a_def_rwt_bibl_vppi_i1 を読んだのはもう11年も前だったでしょうか?新聞に書評が出ていて、後で書くようなディラックの人格(発達障害の可能性)についての興味深い「見立て(obs…

12年前の「新型インフルエンザ」パンデミック

2009年の5月1日の日記に以下のようなことが書かれていた。全然記憶に残っていなかった。 %%%%以下引用%%%%% 警告レベルがフェーズ5に上がり、各国で人から人への感染が広まっている。終に、大学から通達。感染者の出ている国への渡航取りやめを強く勧める。…

漢文と長唄:母と祖父の想い出

私は逆まつ毛がある上にドライアイなので、パソコンを使う仕事を長時間やっていると目が使い物にならなくなる。若い頃はその上乱視がひどくて、体は元気なのに眼性披露で何もできない、ということもあった。乱視の方はコンタクトレンズにして問題がなくなっ…

天野清「量子力学史」:量子力学における観測と因果律

天野清著「量子力学史」(自然選書 中央公論社 1973年刊)を再読したのは10年ほど前だった。(ただし、付録を除く。)やはり、量子力学の講義の準備のためだった。 以下のセクションが量子力学の核心に当たるところであろう。すなわち、 §16 量子力学におけ…

初等量子力学とナノデバイス、そしてド・ブロイの「子供じみた発想」

10年ほど前に古本屋で買った3冊の量子力学の本の想い出と感想です。 1冊は量子デバイスへの応用を念頭においた量子力学の教科書。「通常の量子力学の教科書は原子物理や原子核物理学を題材にしており、量子(ナノ)デバイスへの応用を考えると不満が残る構…

朝永振一郎著「量子力学」第二巻とド・ブロイの物質波の位置づけ

量子力学の講義をしていたころ、朝永の第二巻を再読した。残念ながら、今や(今も?)朝永の第二巻を読んでいる人はあまり多くないと思う(実際、私の恩師も読んでいなかった)が、私は大学院入学前に読んで感動した記憶がある。すこし読み返して、この本は…

50年前の松山東高校創立記念行事:大江健三郎と喜安善一氏の想い出

母校とその前身の旧制中学校からは、正岡子規、高浜虚子などの俳人や小説家の大江健三郎が出ている。伊予はどういうわけか文弱の土地である。四国の中で唯一総理大臣が出ていない。政治のような硬派なことは苦手なのである。 私が高校1年生のとき、旧制中学…

ヒルベルト空間の「可分性」:学生時代の苦い思い出

量子力学の講義を始めたころ、基礎固めのためヒルベルト空間論関係の数学の本を読んでみた(「微分方程式と固有関数展開」(小谷眞一、俣野博著、岩波書店)。昔知っていたことの整理程度にはなったが、始めて知る内容になると興味が続かなくて眠たくなった…

内田光子の思い出

十数年前の年末、BSで2006年ベルリン・フィル、シルベスターコンサートを観た/聴いた。指揮はサイモン・ラトル。交響曲はリヒャルトストラウス関係。これはほとんどスキップ。モーツアルト、ピアノ協奏曲20番ニ短調、K466はすべて聴いた。ピアニストは…

ニーチェのミソジニーは自己嫌悪の表現らしい

以下、引用があって長いですが、高山秀三京都産業大学教授による、ニーチェについての興味深い指摘があります。 ニーチェの著作は読んでいないので知らなかったのですが、ニーチェが女性蔑視の言葉を書き連ねている、ということを聞いて少しひかかるものがあ…

尾崎真理子著「大江健三郎全小説全解説」と大江本人の「私という小説家の作り方」

元読売新聞記者で現在早稲田大学教授の 尾崎真理子さんの書いた「大江健三郎全小説全解説」という、 とんでもないタイトルに興味をそそられ手に取って読んでみた。 もともと大江健三郎は一頃全部ではないがよく読んでいたので、 興味津々の事項が続々と出て…

2021年新年所感

このブログはずっとお休みしていた。別に病気で臥せっていたわけではなく、定年後も続けている専門の共同研究3件、本執筆、俳句作り、そして孫の相手と、実は思いがけなくもかなり忙しい生活をしている。それでブログを書く精神的余裕がなかった。 書きたい…