物理屋の不定期ブログ

読書感想を中心とした雑多な内容のブログ。拙著「量子力学」に関係した記事も含む。

P.A.M.ディラック、`The Strangest Man'

ディラックの伝記 

https://www.amazon.co.jp/gp/product/0465022103/ref=dbs_a_def_rwt_bibl_vppi_i1

を読んだのはもう11年も前だったでしょうか?新聞に書評が出ていて、後で書くようなディラックの人格(発達障害の可能性)についての興味深い「見立て(observation)も書かれているそうなので早速アマゾンに注文して買って読んだのでした。まだ、和訳もKindle版も出ていないときで、英語のペーパーバック。500ページほどの本ですが、当時やっていた量子力学の講義にも役立つだろうという考えもありました。その前には、シュレーディンガーの伝記も読んでいました。これには世紀の変わり目あたりのウィーンの退廃文化とそれを背景としたシュレーディンガーやその仲間(著名な学者たち)の非常にスキャンダラスな振る舞いも紹介されていました。
 Farmeloによる伝記を読んでいるうちに、ディラックの仕事とハイゼンベルグやボルン、ヨルダンの仕事の関連と差に興味を持ってVan der Weldenの論文集にも一部目を通してみました。今更ながら、ディラックは凄い!全く独特だ、と思いました。ボルンやヨルダンと比べてもその抽象化と一般化のレベルが抜きんでています。しかも、ハイゼンベルグの1925年の論文を見て、その年の内に量子力学代数として新しい力学を定式化してしまった、23才のときです。まあ、もちろん比べたりすることは意味がないんだけど、今更ながら我が身を振り返って自分の志の低さに恥じ入ってしまいました。
 この伝記の特記すべきこととして、現代的な知見に基づけばディラック自閉症アスペルガーだったに違いない、と書いています。まあ、私に言わせれば「それがどうした!」、と言いたいところです。アスペルガーと言われるほど、自閉して異常に集中できたからあれだけの独創的な研究が達成できたのでしょう。ほとんどADHDが疑いないほど病的に不注意で集中力の欠如している私にはその集中力が本当に「爪のアカでも煎じて飲みたい」ほど羨ましい、ことでした。