物理屋の不定期ブログ

読書感想を中心とした雑多な内容のブログ。拙著「量子力学」に関係した記事も含む。

20年前、宮崎、高千穂での虹の思い出

もう20年以上前、宮崎市で学会があった。大きくりっぱなコンベンションセンターだった。ある日自由時間ができた。秋晴れのいい天気だったので、急遽研究所の若いポスドクさん4人とでレンタカーを借りて自主エクスカーションうをすることになった。どこか決めていたわけではなく、青島に行き、鬼の洗濯板を見物し、神社の前の茶店でアイスクリームを食べたりした。午後は、誰だったか多分「教養人」の提案で、何時かかるか分からない高千穂を目指すことになった。
 郊外の道を進み上りの坂道に入って行った。さらに、山道をどんどん上って行くと、鋭く切り立った峡谷が続く。左は山の斜面、右は断崖絶壁、車が一台が通れるかどうかぐらいの細い道。少し悪い予感がしたが、不安を口にせず、走っていく。ところが、突然それまでいい天気だったのにあたりが暗くなり土砂降りの雨が降り出した。しばらくはそれでも珍しい体験にキャッ、キャッ歓声上げながら高をくくって車を走らせていく。ところが、ついに視界が1メートルもないほどの豪雨と雷になった。文字通り行くも地獄下がるも地獄、二進も三進も行かなくなってしまった。こんなところで遭難するのだろうか?それまでの歓声はどこへやら、みんな声もでない。
 そのとき、運転していたT君が

「あっ!」、

と言いながらハンドルを切った。前を見ると、何とそこは山の斜面がえぐれて広くなり車一台退避できるようになっている。そこにひとまず車を止めて豪雨と雷をやり過ごすことにした。ちょっと一息。いや、みんな、不安で息をひそめています。このひどい雨は止むのだろうか?

 ところが、案ずるより産むがやすし、4,5分も経つと嘘のように雨が止み、元のように明るい陽射しが射してきた!みんなで一斉に歓声を上げ、さあ出発。そう引き返さずそのまま高千穂を目指したのです。と、そのとき、後ろの座席のIさんが何か叫んだが、よく聞き取れない。

「ええ?」

「虹!」。

まさか、と思いながらフロントガラスの向こうを見ると、青空を背景に谷の出口の向こうに大きなこれまでに見たこともないような鮮やかな七色の虹が懸かっている。それは何か神々しささえ湛えた美しさに感じました。あれが高千穂の国の入り口だ。高千穂は我々を歓迎してくれている!
 そして、このドラマティックなことの成り行きと寿がれた結末に、

 「さすが高千穂、神の国だ!」、

などと言い合いながら喜び合う5人だった。

  高千穂を目指す谷間や秋の虹   (20年後の拙句)