物理屋の不定期ブログ

読書感想を中心とした雑多な内容のブログ。拙著「量子力学」に関係した記事も含む。

俳句誌「橡」2023年11月号に掲載されたいくつかの俳句の鑑賞

供花はけふ秋の白さの木槿かな  山下喜子(p.10)

 亡くなった方への文字通り衷心よりの悼む気持ちが白秋の白と木槿

白い色に象徴されている。秋の白さと言えば、

芭蕉

石山の石より白し秋の風

がすぐに思い浮かぶだろう。この芭蕉の句は小松市にある高野

真言宗の那谷寺を詠んだものだった。

さらに、木槿の底紅は作者の亡くなった方への親愛の気持ちを表して

いるようでもある。

全体として高い品位の感じられる句。人を悼む句として古典となり

得るような名句なのではないだろうか。

 

ベニシアさん在所に遺す紫蘇ジュース 山下喜子(p.10)

  ベニシアさんは亡くなられたが、イギリス貴族の出である彼女が日本文化

を愛した象徴としての「紫蘇」のジュースが彼女の永く住んだ家に残っている。

 

父母も弟も亡き郷螇蚸とぶ     大出岩子 (p.11)

 父母もたった一人の弟も亡くなっていなくなってしまった故郷の町。ふと見る

とバッタがあの頃と変わらず元気にぴょんと跳んだ。あのバッタは無邪気に

遊んでいた弟の生まれ変わりかも知れない。

 

燕去り元の独りに戻りけり     沖崎青波  (p.12)

 家の軒先に燕が巣を作っていたのだろうか?その燕がいなくなると、

また独りぼっちになってしまった。その寂しさを技巧なしにそのまま

表現している。技巧がない分、寂しさが痛切に伝わる。

 

月光を吸へり実を張る青葡萄    山下誠子 (p.13)

 月光を受けて美しく光を放つ青葡萄が膨らんで張り裂けそうに見える。

その大きな膨らみの元は、そうだ!青葡萄が吸った月の光に違いない!

 

産衣干す軒に朝顔咲きのぼり   布施朋子 (p.48)

 子供の生まれたことの仕合せとその高揚感、そして明るいめでたさが

よく表現されている。