物理屋の不定期ブログ

読書感想を中心とした雑多な内容のブログ。拙著「量子力学」に関係した記事も含む。

岩波文庫版「M/Tと森のフシギの物語」を買った ---個人的悲報;物忘れの事例 ---

最近、物忘れのひどさを家内に指摘されることが多い私であるが、今日は我ながら唖然とするできごとがあった。ここにその「悲報」を報告し今後の戒めとしたい。
 大江健三郎が亡くなって関連記事を読んでいるうちに、どうやらまだ私が読もうとして読めていない「同時代ゲーム」と「M/Tと森のフシギの物語」が「万延元年のフットボール」以降では最重要な作品らしいことが確認できた。
 「ああ、両方とも文庫本で持っていたなあ、読んでみよう、いや、ちょっとペラペラでも眺めてみよう」、とあちこち何日も探したが見つからない。定年のとき研究室の図書や資料を持ち帰る時ひょっとして処分してしまったのかもしれない、「ああ何と馬鹿なことを!」と思い悔やんだ。
 しょうがなく、Amazonで両方ともカートに入れて「ポチッ」と押そうかどうか迷ったあげく、一度は手元にあった2冊とも買うのはなんとなく癪に障るので、まずは1冊ということにし、「同時代ゲーム」を短く読みやすくしたと言う「M/T」を「ポチ」った。それが今日届いた。それを机の近くの本棚に並べようと思い他の本を少し移動して整理していたそのとき!!
 机のすぐ横の奥の深い本棚の中に並んでいるその2冊!それは見まごう事なきあれほど探しに探し回った件の2冊だ。
 そうだった、尾崎真理子著「大江健三郎全小説全解説」というとんでもない題に誘われて買って読んだ2年前、この2冊は是非読まなければいけないと思いすぐ読めるように机の横に移動させていたのだった。その後、この難物を読み始める決意ができない(ちなみに、同様に傑作の「万延元年のフットボール」は1行、いや1句読んではいろんな想念が沸き起こって、私は全部を読み切るのに10年以上かかった)まますっかり忘れてしまっていたのだった、、、
 ただ小さな慰めはある。「M/T」の新版の岩波文庫版(だけでなくほとんどの短編小説)は作者が岩波文庫版に収録するとき大幅に改変しているらしいし、芥川賞作家でNHKの「日美」のMCの小野正嗣早稲田大学教授の「解説」もなかなかの名解説らしい。実際、岩波文庫版の作者のあとがき「語り方の問題(二)」において、小野の解説が特別のものであり、大江の「長編小説のほぼ全体への展望に立っている評論です。」云々、と紹介されている。またそのことは、「群像」5月号の大江健三郎追悼に寄せた文章で小野が感謝と共に遠慮深い表現で言及している。ということで、この「余計な買い物」は100%無駄にはならなかったようだ。