物理屋の不定期ブログ

読書感想を中心とした雑多な内容のブログ。拙著「量子力学」に関係した記事も含む。

大江健三郎「政治少年死す」(「セウ’’ンティーン」第二部)を読んだ!

1961年の雑誌「文学界」2月号に発表されて以来、2015年のドイツ語訳以外、一度も書籍化されることのなかった大江健三郎「政治少年死す」が大江健三郎全小説第三巻(講談社)に収録されている!ことを知り、図書館から借りてきて読んでみた。

 まず、驚くのはこの緊張感のある文章で綴られてた洞察に満ちた小説が25歳の青年によって書かれた、という事実である。もちろん、若さゆえの勢いある文章とともに、たとえば、カミュの「異邦人」の影響をあからさまに示す下りも出てくる。

 しかし、これは内部からの性的衝動に強く影響されながらも同時に実存の悩みを誠実にそして知的に苦悩する普遍的青年像を描いた世界の名作である。さらに驚くべきことは、この60年以上前に書かれた小説が21世紀の現在のアクチャルな課題を深く描いているということ、しかも現代この時期に書かれた小説だとしても最先端の優れた小説として屹立している、ということである。そのことは、巻末に付された日地谷=キルシュネライト・イルメラ氏(ベルリン自由大学教授)の評論により明快にかつ説得的に解説されている。

 確かに、大江はドストエフスキーと並んで評価されるほどの世界の大作家である、という尾崎真理子氏(早稲田大学教授)の評価を再確認したように思う。